高齢者の老衰とは、加齢に伴う身体機能の衰弱による死のことです。老衰の前兆は、身体機能の低下や食事量・体重の減少、睡眠時間の増加などです。老衰死で意志疎通ができなくなる前に、終活について確認するのが大切です。この記事では、老衰の意味や前兆に加え、家族ができる老衰死の準備やケア方法を紹介します。
老衰とは?
老衰とは、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いると定義されています。老衰から他の病気を併発したり、病気や事故で亡くなったりした場合は、老衰は死因にはなりません。高齢化社会が進む現代では老衰死が年々増加していて、2021年の人口動態統計月報年計では「悪性新生物(腫瘍)」「心血管疾患」に並んで、老衰が第3位の死因になっています。[^1^][1]
老衰死の前兆・症状
老衰死の代表的な前兆は、こちらの4つです。
- 身体機能の低下
- 食事量の減少
- 体重の減少
- 睡眠時間の増加
身体機能が低下すると、1日の消費エネルギーが少なくなりがちです。また加齢によって食べ物を飲み込む嚥下機能が衰えるため、食事が億劫になる高齢者は多いです。結果的に、食欲が低下して以前より食事量が減少します。老衰の場合、食事量が減ったあと改善しないまま、自力で食事をとるのが難しくなっていくのが一般的です。
老衰では、食事量の減少に加えて、食べ物を分解・吸収する消化機能も低下していきます。消化器官が衰えると栄養を吸収しにくくなり、きちんと食事を摂っていても体重が減少しがちです。また、高齢者に多い骨密度や水分量の低下も、体重減少を加速させます。急速に体重が減少したり、見るからにやせ細ったりしたら、老衰を疑って栄養状態に気を配りましょう。
老衰によって、体力や身体機能が低下すると、脳機能が下がって意識を保つのが難しくなります。昼夜問わず眠くなることが増え、1日のほとんどを寝て過ごす状態が続くようになったら、老衰死を迎える心構えが必要になってくるでしょう。
老衰の経過と死亡するまでの期間
老衰が進むと、食べ物を飲み込む力が弱まり、通常の食事を摂るのが難しくなります。食べ物を小さくカットしたり、ペースト状にしたりと、飲み込みやすい形状に変えて食事をするのが一般的です。自分で食事をとれない場合は、介護食に切り替えて食事介助を受ける方も多いです。
口から食事を摂れなくなったら、「経鼻経管(けいびけいかん)栄養」か「胃瘻(いろう)栄養」で栄養を補給します。「経鼻経管栄養」は鼻から胃へチューブを通す方法。「胃瘻栄養」は、胃に穴をあけてチューブを通し、栄養剤を入れる方法です。また「経鼻経管栄養」「胃瘻栄養」を行わない場合、点滴で栄養を補給するケースもあります。
口から食事を摂れなくなったあと、経鼻経管栄養・胃瘻栄養・点滴などを行わない場合は、1週間前後のうちにご逝去する方が多いようです。
老衰死に備えて家族がすべき準備
老衰で意思疎通ができなくなったり、亡くなったりする前に家族がすべき準備はこちらです。
- 延命治療の意志を確認する
- 遺言状の準備をする
- 葬儀の希望を聞いておく
延命治療、遺言状、葬儀と、どれも終活に関する確認事項です。相手が元気だと切り出しにくい話題ですが、確認しておくことで、きちんと故人の意志を反映できます。
延命治療の意志を確認する
延命治療の意志を確認することは、老衰死に備える上で重要なことです。延命治療とは、人工呼吸器や点滴などの医療技術を用いて、死を遅らせる治療のことです。延命治療には、本人の苦痛や生活の質を低下させる可能性があります。そのため、本人がどこまでの延命治療を望むのか、事前に確認しておく必要があります。
延命治療の意志を確認する方法は、いくつかあります。一つは、本人が自分で「事前指示書」や「尊厳死宣言書」などの書類を作成することです。これらの書類には、心肺蘇生や胃瘻栄養などの延命治療の可否や、最期を迎えたい場所などの希望を記入します。これらの書類は、医療機関や介護施設などで入手できます。[^1^][2][^2^][3]
もう一つは、家族が本人に延命治療について話し合うことです。これは、本人が書類を作成できない場合や、書類に書ききれないことがある場合に有効です。家族が本人に延命治療について話し合うときは、以下の点に注意しましょう。
- 本人の時代の価値観や信仰を理解する
- 本人の希望を尊重する
- 医師や看護師などの専門家の意見も聞く
- 家族の気持ちを押し付けない
- 関係者と情報を共有する
延命治療の意志を確認することは、本人の尊厳を守ることにもつながります。本人が望む死に方を知っておくことで、家族も安心して看取ることができます。
遺言状の準備をする
遺言状の準備をすることは、老衰死に備える上で有用なことです。遺言状とは、本人が死後に財産や遺品などの分配や処分に関する意思を書面にしたものです。遺言状がない場合、法定相続人によって財産が分割されますが、これには不満やトラブルが生じる可能性があります。そのため、本人が自分の意思を遺言状に残しておくことで、家族の紛争や負担を防ぐことができます。
遺言状の準備には、いくつかの方法があります。一つは、本人が自分で「自筆証書遺言」を作成することです。これは、本人が全文を自筆で書き、日付と氏名を記入し、署名と押印をすることで有効な遺言となります。この方法は、手軽に作成できますが、書き方に誤りがあると無効になる恐れがあります。[^3^][4]
もう一つは、公証人による「公正証書遺言」を作成することです。これは、本人が公証人に口頭で遺言の内容を伝え、公証人がそれを書面にしたものです。この方法は、法的に確実な遺言となりますが、公証人に依頼するために費用がかかります。[^3^][4]
遺言状の準備をすることは、本人の意思を家族に伝えることにもなります。本人が自分の財産や遺品に対する希望を家族に知らせておくことで、家族も故人の思いに沿って処理することができます。
葬儀の希望を聞いておく
葬儀の希望を聞いておくことは、老衰死に備える上で必要なことです。葬儀とは、本人の死を悼み、故人の魂を送る儀式です。葬儀には、宗教や地域によってさまざまな形式がありますが、本人がどのような葬儀を望むのか、事前に確認しておくことが望ましいです。
葬儀の希望を聞いておくことで、以下のメリットがあります。
- 故人の意志を反映できる
- 家族の負担を軽減できる
- 葬儀の準備をスムーズにできる
葬儀の希望を聞いておく方法は、いくつかあります。一つは、本人が自分で「葬儀の希望書」や「葬儀の遺言書」などの書類を作成することです。これらの書類には、葬儀の形式や規模、参列者、埋葬方法、供花や供物などの希望を記入します。これらの書類は、葬儀社や終活支援団体などで入手できます。
もう一つは、家族が本人に葬儀について話し合うことです。これは、本人が書類を作成できない場合や、書類に書ききれないことがある場合に有効です。家族が本人に葬儀について話し合うときは、以下の点に注意しましょう。
- 本人の宗教や文化を理解する
- 本人の希望を尊重する
- 葬儀社や斎場などの専門家の意見も聞く
- 家族の気持ちを押し付けない
- 関係者と情報を共有する
葬儀の希望を聞いておくことは、本人の最後の願いを叶えることにもなります。本人が自分の葬儀に対する希望を家族に知らせておくことで、家族も故人の思いに沿って送別することが できます。葬儀の希望を聞いておくことで、家族も故人の思いに沿って送別することができます。
老衰死のケア方法
老衰死のケア方法は、以下のように分けられます。
- 身体的なケア
- 精神的なケア
- 環境的なケア
身体的なケアとは、老衰で低下した身体機能をサポートすることです。具体的には、以下のようなことがあります。
- 食事や水分の補給をする
- 口腔ケアやスキンケアをする
- 排泄や入浴の介助をする
- 痛みや苦しみを和らげる薬や処置をする
- 寝返りや体位変換をする
精神的なケアとは、老衰で不安や孤独を感じる心を癒すことです。具体的には、以下のようなことがあります。
- 話し相手になる
- 手を握ったり抱きしめたりする
- 好きな音楽や香りを流す
- 思い出話や感謝の言葉を伝える
- 宗教的な儀式や祈りをする
環境的なケアとは、老衰で快適に過ごせる空間を作ることです。具体的には、以下のようなことがあります。
- 温度や湿度を調整する
- 明るさや静けさを保つ
- 清潔で安全なベッドや枕を用意する
- 家族やペットと一緒に過ごせるようにする
- 最期を迎えたい場所に移動させる
老衰死のケア方法は、本人の状態や希望に応じて変えることができます。本人の声に耳を傾け、尊厳を守りながら、最善のケアを提供しましょう。
まとめ
この記事では、高齢者の老衰とは何か、老衰死の前兆や症状、死亡するまでの期間、家族がすべき準備やケア方法について解説しました。老衰は、加齢に伴う身体機能の衰弱による死のことで、身体機能の低下や食事量・体重の減少、睡眠時間の増加などが前兆です。老衰死に備えるためには、延命治療の意志や遺言状、葬儀の希望などを確認しておくことが大切です。また、老衰死のケア方法としては、身体的なケアや精神的なケア、環境的なケアを行うことが必要です。老衰死は、自然な死と考えることができます。本人の尊厳を守りながら、家族との絆を深めて、穏やかな最期を迎えられるようにしましょう。