🧩 認知症の方の「人生」を読み解く
専門職のためのアセスメントとケアプランの極意
これまでの記事で、認知症の方への効果的な声かけや、安心できる環境づくりについて解説してきました。しかし、これらの実践は、その方の**「過去の人生」や「現在の能力」を深く理解**していなければ、単なる表面的な対応に終わってしまいます。今回は、介護職が専門職として、利用者様の行動の背後にある「人生」を読み解き、真にその人らしい生活を支えるためのアセスメントとケアプランの作成方法に焦点を当てます。
その人の「物語」を理解すること。それが、介護を単なる作業から「人生を支える仕事」へと昇華させる鍵です。
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1. なぜ「人生のアセスメント」が必要なのか?
認知症ケアにおける「アセスメント」は、単にADL(日常生活動作)を評価するだけではありません。**行動の背景にある『意味』**を読み解くことが、専門的なアプローチの出発点です。
事例:Aさんの「家に帰る」という訴え
表面的対応: 「ここがあなたのお家ですよ」と、現実を伝える。
アセスメントに基づく対応: なぜ「帰りたい」と思うのか、その理由を探る。
- 実は、自宅にいた頃は毎朝、妻のために庭の花に水をやるのが日課だった。
- その習慣が今も残っており、「家に帰って水をやらなければ」という衝動に駆られている。
この場合、Aさんが本当に求めているのは「庭いじり」という**役割**と、それに伴う**安心感**かもしれません。アセスメントによって、その行動を「目的」へと昇華させることができます。
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2. 人生を読み解く「4つの視点」
アセスメントを深めるために、以下の4つの視点から利用者様の情報を集めましょう。
視点① 過去の人生史
職業、趣味、家族構成、大切な思い出など、その人が生きてきた道を丁寧に聞き取ります。
元教師: 人に教えることが得意だった→レクリエーションで他の利用者さんにルールを教えてもらう役割をお願いする。
元料理人: 料理を作ることが好きだった→簡単な調理作業を手伝ってもらう。
視点② 好き・嫌い・苦手
食事の好み、嫌いな音や匂い、苦手な身体的接触など、五感で感じる情報を細かく把握します。
特定の匂いが苦手: 昔、病院の消毒液の匂いが嫌いだった→その香りの清掃用具は使わない。
大きな音が苦手: 過去に雷が怖かった経験がある→雷の日に窓を閉め、音楽をかける。
視点③ 認知症の進行度と「できること」
何を忘れ、何が残っているのかを正確に把握します。特に「できること」に焦点を当てることで、自立支援につながります。
短期記憶は難しいが、長期記憶は鮮明: 昔の思い出話を聞くことで、心を開いてもらう。
言葉は出ないが、表情や手ぶりは豊か: 非言語的なサインを読み取ることで、意思疎通を図る。
視点④ 習慣とルーティン
長年の習慣は、認知症になっても残りやすいものです。「朝起きたらまずコーヒーを飲む」「食後は庭に出て一服する」といった、本人の生活リズムを把握し、できる限り尊重します。
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3. アセスメントをケアプランに落とし込む方法
集めた情報は、具体的なケアプランに反映させることで初めて意味を持ちます。
ケアプランへの反映例
目標設定: 「不安な感情を緩和し、穏やかに過ごせる時間を作る」
具体的なケア:
- 朝の着替え前に、**昔好きだったジャズ**を流す。
- 昼食後、**庭に出て日課だった花への水やり**を一緒に行う。
- 夜間の徘徊時には、**「探しものですか?」**と声をかけ、**「ご一緒に探しましょうか」**と目的行動に転換させる。
このプランは、単に「転倒防止」や「食事介助」といった項目を並べるのではなく、利用者様の人生を尊重する**「物語の設計図」**となります。
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💖 まとめ:ケアプランは「物語の設計図」
📖 認知症の方は、言葉では語れなくても、
その行動一つひとつが、**人生の「物語」を紡いでいます**。
✅ 行動を否定せず、**その裏にある真の意味**を読み解く。
✅ 過去の人生と今の能力を統合し、**その人らしいケア**を創造する。
この専門的なアセスメントこそが、
利用者様の尊厳を守り、心の安定を支える
介護職の真のプロフェッショナルな仕事なのです。