シンガポールは、アジアの中でも高齢化が急速に進む国の一つです。2030年までには、65歳以上の人口が25％に達すると予測されています。このような状況に対応するために、シンガポールはどのような介護政策をとっているのでしょうか。また、日本と比べて、どのような特徴や課題があるのでしょうか。この記事では、シンガポールの介護の国際比較について、以下の3点に焦点を当てて解説します。
- シンガポールの介護保険制度の概要と特徴
- シンガポールの介護サービスの種類と質
- シンガポールの介護の課題と今後の展望
シンガポールの介護保険制度の概要と特徴
シンガポールの介護保険制度は、2002年に導入された「ElderShield」という制度です。これは、重度の身体障害になった場合に、毎月一定額の給付金を受け取ることができる制度です。給付金の額は、月額300Sドル（約2万4000円）か400Sドル（約3万2000円）で、支給期間は60か月か72か月です。加入は40歳から50歳の間に自動的に行われ、保険料は中央積立基金（CPF）という国民年金制度から自動的に引き落とされます。ただし、加入を拒否することもできます。
シンガポールの介護保険制度の特徴は、以下の3点にまとめられます。
- 家族や個人の自助努力を重視する。シンガポールの介護保険制度は、高齢者の生活費の全てをカバーするものではなく、あくまで補助的なものです。高齢者は、まず家族や親戚からの支援を受けることが期待されており、それでも足りない場合には、自分の貯蓄や年金、投資などから資金を捻出することが求められます。政府は最後の手段として、低所得者や支援のない高齢者に対して、補助金や扶助金などの福祉制度を提供しています。
- 介護の需要と供給のバランスを調整する。シンガポールの介護保険制度は、介護の需要と供給のバランスを調整するために、様々な施策を行っています。例えば、介護サービスの提供者に対しては、資格や基準の設定、研修や教育の支援、質の向上やイノベーションの促進などを行っています。また、介護サービスの利用者に対しては、介護の必要性や種類、費用などに関する情報提供や相談、適切なサービスの紹介や調整、費用負担の軽減や補助などを行っています。
- 介護の多様性と柔軟性を尊重する。シンガポールの介護保険制度は、高齢者のニーズや希望に応じて、多様な介護サービスを選択できるようにしています。例えば、在宅介護サービスでは、訪問看護や訪問介護、通所介護や通所リハビリ、在宅医療や在宅リハビリなどのサービスがあります。また、施設介護サービスでは、老人ホームや介護付き住宅、短期入所や緊急入所などのサービスがあります。高齢者は、これらのサービスを組み合わせたり、切り替えたりすることができます。
シンガポールの介護サービスの種類と質
シンガポールの介護サービスは、大きく分けて在宅介護サービスと施設介護サービスの2種類があります。在宅介護サービスは、高齢者が自宅で生活しながら、必要なケアや支援を受けることができるサービスです。施設介護サービスは、高齢者が自宅以外の場所で生活しながら、必要なケアや支援を受けることができるサービスです。以下では、それぞれのサービスの種類と質について詳しく見ていきましょう。
在宅介護サービス
在宅介護サービスには、以下のようなサービスがあります。
- 訪問看護：看護師が自宅を訪問して、傷や病気の治療や管理、医療機器の操作や管理、医療的なアドバイスなどを行うサービスです。
- 訪問介護：介護士が自宅を訪問して、身体介護や生活支援、認知症ケアや介護者支援などを行うサービスです。
- 通所介護：高齢者が近くのセンターに通って、食事や入浴、レクリエーションや社会参加などを行うサービスです。
- 通所リハビリ：高齢者が近くのセンターに通って、理学療法や作業療法、言語療法などを行うサービスです。
- 在宅医療：医師や看護師が自宅を訪問して、診察や治療、薬の処方や管理、健康教育などを行うサービスです。
在宅介護サービスの質は、以下のような要素によって評価されます。
- アクセシビリティ：高齢者が必要なときに、適切なサービスを受けられるかどうか。
- 効果性：サービスが高齢者の健康や生活の質を改善するかどうか。
- 安全性：サービスが高齢者に危害や不利益を与えないかどうか。
- 満足度：高齢者やその家族がサービスに満足しているかどうか。
シンガポールでは、在宅介護サービスの質を向上させるために、以下のような取り組みが行われています。
- サービスの標準化：在宅介護サービスの提供者に対して、サービスの内容や質に関するガイドラインや基準を設定し、それに沿ってサービスを提供することを求めています。
- サービスの評価：在宅介護サービスの提供者に対して、サービスの質や成果に関するデータを収集し、分析し、フィードバックすることで、サービスの改善や向上を促しています。
- サービスの認証：在宅介護サービスの提供者に対して、サービスの質や安全性に関する第三者による認証制度を導入し、認証を取得した提供者には、補助金や優遇措置などを与えています。
施設介護サービス
施設介護サービスには、以下のようなサービスがあります。
- 老人ホーム：高齢者が長期的に入所し、24時間体制でケアや支援を受ける施設です。
- 介護付き住宅：高齢者が自立した生活を送りながら、必要に応じてケアや支援を受ける施設です。
- 短期入所：高齢者が一時的に入所し、ケアや支援を受ける施設です。介護者の休養や病気などの理由で利用されます。
- 緊急入所：高齢者が急にケアや支援が必要になった場合に、短期間入所し、ケアや支援を受ける施設です。介護者の急病や事故などの理由で利用されます。
施設介護サービスの質は、在宅介護サービスと同様に、アクセシビリティ、効果性、安全性、満足度の4つの要素によって評価されます。シンガポールでは、施設介護サービスの質を向上させるために、以下のような取り組みが行われています。
- 施設の整備：施設介護サービスの需要に応えるために、新たな施設の建設や既存施設の改修を行っています[11]。また、施設のデザインや環境に配慮し、高齢者の快適さや安全性を高めています。
- 施設の多様化：高齢者のニーズや希望に応じて、様々なタイプの施設を提供しています。例えば、認知症の高齢者に対応した施設や、民間や非営利団体が運営する施設などがあります。
- 施設の連携：施設介護サービスの提供者と他の医療や福祉の機関との連携を強化し、高齢者のトランジションやリファラルを円滑に行っています[14]。また、施設内でも、医師や看護師、介護士などの職種間の連携を促しています。
以下に日本との比較の表を作成してます。参考にどうぞ。
| 項目 | シンガポール | 日本 |
|---|---|---|
| 高齢者人口比率 | 2019年で14.4％[^1^][1] | 2019年で28.4％[^2^][2] |
| 介護保険制度の導入年 | 2002年[^3^][3] | 2000年[^4^][4] |
| 介護保険制度の内容 | ElderShieldという制度で、重度の身体障害になった場合に、毎月一定額の給付金を受け取ることができる。給付金の額は、月額300Sドル（約2万4000円）か400Sドル（約3万2000円）で、支給期間は60か月か72か月。加入は40歳から50歳の間に自動的に行われ、保険料は中央積立基金（CPF）という国民年金制度から自動的に引き落とされる。加入を拒否することもできる[^3^][3] | 介護保険法という法律で、要介護状態になった場合に、介護サービスの利用や介護用品の購入などに対して一部負担する制度。介護サービスの種類や内容は介護保険サービスの利用者の選択による。加入は40歳以上の全国民で、保険料は40歳から64歳までは健康保険料に上乗せされ、65歳以上は市町村から納付通知される。加入を拒否することはできない[^4^][4] |
| 介護の担い手 | 家族や個人の自助努力を重視し、政府は最後の手段とする。高齢者はまず家族や親戚からの支援を受けることが期待されており、それでも足りない場合には自分の貯蓄や年金、投資などから資金を捻出することが求められる。政府は最後の手段として低所得者や支援のない高齢者に対して補助金や扶助金などの福祉制度を提供する[^5^][5] | 社会的な共助や公的な介護保険制度を重視し、政府は主導的な役割を果たす。高齢者は介護保険制度を通じて介護サービスを利用することができる。介護サービスの提供者は公的な介護報酬を受け取る。政府は介護保険制度の運営や監督、介護サービスの質や安全性の確保、介護人材の育成や定着などを行う[^6^][6] |
| 介護サービスの種類と質 | 在宅介護サービスと施設介護サービスの2種類があり、高齢者のニーズや希望に応じて選択できる。在宅介護サービスには訪問看護や訪問介護、通所介護や通所リハビリ、在宅医療や在宅リハビリなどがある。施設介護サービスには老人ホームや介護付き住宅、短期入所や緊急入所などがある。介護サービスの質はアクセシビリティ、効果性、安全性、満足度の4つの要素によって評価される。介護サービスの質を向上させるために、サービスの標準化や評価、認証などの取り組みが行われている | 在宅介護サービスと施設介護サービスの2種類があり、要介護認定を受けた高齢者が介護保険制度の範囲内で利用できる。在宅介護サービスには訪問看護や訪問介護、通所介護や通所リハビリ、居宅介護支援などがある。施設介護サービスには特別養護老人ホームや介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅やグループホームなどがある。介護サービスの質はアクセシビリティ、効果性、安全性、満足度の4つの要素によって評価される。介護サービスの質を向上させるために、サービスの基準や指標、評価や監査などの取り組みが行われている |
| 介護の課題と展望 | 介護の課題としては、介護人材の不足や介護費用の高騰、介護の意識の低さなどがある。介護の展望としては、介護人材の育成と定着や介護費用の抑制と支援、介護の意識の向上と普及などがある | 介護の課題としては、介護人材の不足や介護費用の増加、介護の質や安全性の確保などがある。介護の展望としては、介護人材の育成と定着や介護費用の分担と支援、介護の質や安全性の向上などがある |
シンガポールの介護の課題と今後の展望
シンガポールの介護には、以下のような課題があります。
- 介護人材の不足：介護の需要の増加に対して、介護人材の供給が追いついていません。介護人材の不足は、介護の質や安全性に影響を与えるだけでなく、介護人材の負担や離職率の増加にもつながります。
- 介護費用の高騰：介護の需要の増加に伴って、介護費用も高騰しています。介護費用の高騰は、高齢者やその家族の経済的な負担を増やすだけでなく、介護のアクセシビリティや公平性にも影響を与えます。
- 介護の意識の低さ：シンガポールでは、介護に対する意識や理解が低いという問題があります。介護に対する意識や理解が低いと、介護の必要性や利用方法が分からなかったり、介護に対する偏見やタブーが生じたりします。
シンガポールの介護の今後の展望は、以下のようなものがあります。
- 介護人材の育成と定着：介護人材の不足を解消するために、介護人材の育成と定着に力を入れています。介護人材の育成には、介護の教育や研修、資格やキャリアパスの整備などが行われています[19]。介護人材の定着には、介護人材の待遇や福利厚生の改善、介護人材の声や意見の反映、介護人材の健康や幸福の支援などが行われています。
- 介護費用の抑制と支援：介護費用の高騰を抑制するために、介護サービスの効率化やイノベーション、介護サービスの公的な購入や調達などが行われています[21]。また、介護費用の支援には、介護保険制度の拡充や改革、介護費用の補助金や減免、介護費用の分担や共有などが行われています。
- 介護の意識の向上と普及：介護に対する意識や理解を高めるために、介護に関する情報や教育、啓発、キャンペーンなどが行われています[23]。また、介護に対する偏見やタブーをなくすために、介護の価値や尊厳、多様性や包摂性などを強調しています。
シンガポールの介護は、高齢化社会に対応するために、様々な取り組みを行っています。しかし、まだまだ解決すべき課題も多くあります。シンガポールの介護は、今後も政府や市民、事業者などの協力のもと、介護の質やアクセシビリティ、公平性や持続性などを向上させていくことが期待されます。
