介護業界は、少子高齢化に伴う人材不足や高齢者のニーズの多様化などの課題に直面しています。そのような課題の解決に役立つと期待されているのが、IoT(モノのインターネット)です。IoTとは、インターネットに接続された様々な機器やセンサーがデータをやり取りする仕組みのことで、介護現場では業務の効率化や質の向上に役立つと考えられています。本記事では、介護におけるIoTの市場規模や導入事例、課題や対策などについて解説します。
介護におけるIoTの市場規模
介護におけるIoTの市場規模は、年々拡大傾向にあります。2021年11月にSEED PLANNINGが発表した「2021年版 高齢者見守り・緊急通報サービス 市場動向とニーズ調査」によると、高齢者見守り・緊急通報サービスの市場規模は2020年時点で262億円ですが、2030年には381億円に拡大すると予測されました。この調査における市場規模とは、介護施設向けサービス、自治体向けサービス、家庭・個人向けサービスの3市場の合計を指します。このことから、介護におけるIoTの市場規模は拡大傾向にあるため、まだまだビジネスチャンスがあると考えられます。
介護における新たなIoTビジネスの事例
介護における新たなIoTビジネスの事例としては、以下のようなものがあります。
シニアテックマンション®に「eMamo」を導入して高齢者の見守りができる家づくり
不動産売買やマンション開発事業を行っている株式会社シーラでは、シニア向けのリノベーションとIoTによる見守りシステムを兼ね備えたシニアテックマンション®19室に、株式会社リンクジャパンの「eMamo」を導入して高齢者の見守りができる家づくりに取り組みました。eMamoの安否確認機能では、人感センサーと開閉センサーを用いて在室しているかどうかや人の動きがあるかどうかを確認できるため、遠くに離れて住む家族がシニアテックマンションに住む高齢者の見守りをすることができるのです。IoT技術で物件の付加価値を高め、新たなビジネスを生み出した好事例と言えるでしょう。
「helppad」を導入してオムツ交換の負担を軽減
排泄ケアシステム「helppad」は業界初のにおいで尿と便を感知するセンサーを使った排泄ケアシステムです。オムツを開けることなく排泄しているかどうかがわかるため、必要な時だけ排泄ケアを行うことができます。また排泄ケアの記録を電子化し、そこから個人の排泄のパターンをつかむこともできるため、利用者1人1人に寄り添った排泄ケアができるようになるでしょう。「helppad」は2022年4月の時点では約100の施設におけるレンタル・デモンストレーションで体験が行われ、購入した約20の施設ではトイレ自立へのアプローチや夜間のオムツ交換の削減に貢献しています。IoT技術で利用者のプライバシーを最大限尊重しながら快適な排泄ケアを実現した好事例と言えるでしょう。
運営する介護施設のニーズからコミュニケーションロボット「CoCoRoCo®」を開発
TPR株式会社は、運営する介護施設のニーズからコミュニケーションロボット「CoCoRoCo®」を開発しました。CoCoRoCo®は、利用者の声や動きに反応して話しかけたり、歌ったり、踊ったりするロボットです。利用者の好みや性格に合わせて会話内容や声のトーンを変えることができるため、利用者とのコミュニケーションを深めることができます。また、利用者の体調や気分の変化を感知して、適切な声掛けやアドバイスをすることもできます。CoCoRoCo®は、2022年10月に特許を取得し、2023年4月には国内外の介護施設や個人向けに販売を開始しました。IoT技術で利用者の心のケアをサポートする好事例と言えるでしょう。
介護におけるIoT導入の課題と対策
介護におけるIoT導入には、多くのメリットがありますが、同時に課題もあります。介護現場でIoTを導入する際には、以下のような課題と対策に注意する必要があります。
導入費用と維持管理費が高い
IoT機器やシステムを導入するには、高額な費用がかかります。また、導入後も定期的なメンテナンスや更新が必要になります。介護業界は、利益率が低く、資金繰りが厳しいという現状があります。そのため、IoT導入の費用対効果を慎重に検討する必要があります。対策としては、以下のようなものがあります。
- 補助金制度の活用:政府や自治体などが実施しているIoT導入に関する補助金制度を活用することで、導入費用を軽減することができます。例えば、経済産業省が実施している「ICT導入支援事業」では、中小企業や個人事業主がICT(情報通信技術)を導入する際に、導入費用の一部を補助しています。また、厚生労働省が実施している「介護ロボット導入支援事業」では、介護ロボットを導入する介護事業者に対して、導入費用の一部を補助しています。
- レンタルやリースの利用:IoT機器やシステムを購入するのではなく、レンタルやリースすることで、初期費用や維持管理費を抑えることができます。例えば、株式会社リンクジャパンの「eMamo」は、月額制のレンタルサービスとして提供されています。また、株式会社ヘルプパッドの「helppad」は、月額制のレンタルサービスとして提供されています。
職員全員に機器やシステムを理解させることが難しい
IoT機器やシステムを導入するには、職員全員がその使い方や操作方法を理解し、適切に活用することが必要です。しかし、介護現場では、職員の年齢やスキルにばらつきがあり、IoTに対する抵抗感や不安感を持つ人もいるかもしれません。そのため、職員の教育や研修が重要になります。対策としては、以下のようなものがあります。
- 導入前の説明会や体験会の実施:IoT機器やシステムを導入する前に、職員に対してその目的や効果、使い方や操作方法などを詳しく説明することで、職員の理解や納得を得ることができます。また、実際に機器やシステムを体験することで、職員の興味や関心を高めることができます。
- 導入後のフォローアップやサポートの充実:IoT機器やシステムを導入した後も、職員の疑問や不安に対応するために、フォローアップやサポートを充実させることが必要です。例えば、機器やシステムの提供者や専門家による定期的な訪問や電話、メールなどのサポートを受けることで、職員の不安やトラブルを解決することができます。また、職員同士での情報交換や意見交換を促すことで、職員のスキルアップやモチベーションアップにつなげることができます。
個人情報漏洩リスクへの対策が必要
IoT機器やシステムを導入することで、利用者や職員の個人情報がインターネットに接続された機器やシステムに保存されたり、送受信されたりすることになります。そのため、個人情報の漏洩や改ざんなどのリスクが高まります。そのようなリスクに対処するためには、以下のような対策が必要です。
- 個人情報保護法やガイドラインの遵守:IoT機器やシステムを導入する際には、個人情報保護法や厚生労働省が定めた「介護サービスにおける個人情報保護に関するガイドライン」などの法律や規則を遵守することが必要です。例えば、利用者や職員の個人情報を取り扱う際には、その目的や範囲を明確にし、本人の同意を得ることや、個人情報の管理責任者を設置することや、個人情報の安全管理措置を講じることなどが求められます。
- 機器やシステムのセキュリティ対策の強化:IoT機器やシステムを導入する際には、機器やシステムのセキュリティ対策を強化することが必要です。例えば、機器やシステムのパスワードや暗号化を設定することや、不正アクセスやウイルスなどの侵入を検知することや、データのバックアップや復旧を行うことなどが求められます。
まとめ
本記事では、介護におけるIoTの市場規模や導入事例、課題や対策などについて解説しました。IoTは、介護現場での業務の効率化や質の向上に役立つと期待されていますが、同時に導入費用や維持管理費が高い、職員全員に機器やシステムを理解させることが難しい、個人情報漏洩リスクへの対策が必要などの課題もあります。そのため、IoT導入にあたっては、補助金制度の活用やレンタルやリースの利用、導入前の説明会や体験会の実施、導入後のフォローアップやサポートの充実、個人情報保護法やガイドラインの遵守、機器やシステムのセキュリティ対策の強化などの対策に注意する必要があります。IoTは、介護のイノベーションを促進する可能性を秘めていますが、その一方で、介護の人間性や倫理性を失わないようにすることも重要です。IoTを介護に適切に導入することで、利用者や職員の幸せに貢献できることを願っています。