高齢者の慢性腎不全とは？原因、症状、治療法、注意点を解説

高齢者に多い病気のひとつに慢性腎不全があります。慢性腎不全とは、腎臓の働きが徐々に低下していく状態で、進行すると尿毒症や心血管疾患などの重篤な合併症を引き起こします。慢性腎不全の原因には、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が多く関係しています。慢性腎不全の症状は、初期には自覚しにくいものが多いですが、夜間頻尿や貧血、むくみ、食欲不振などが現れます。慢性腎不全の治療法には、原因となる疾患の治療や食事療法、薬物療法などがあります。腎機能が極度に低下した場合は、透析や腎移植などの腎代替療法が必要になります。慢性腎不全の注意点には、薬の服用管理や感染予防、水分制限などがあります。高齢者の慢性腎不全について、原因、症状、治療法、注意点を詳しく解説します。

高齢者の慢性腎不全の原因

慢性腎不全の原因となる疾患には、以下のようなものがあります。

疾患名	説明
糖尿病性腎症	糖尿病が長期間にわたって血糖値のコントロールが不十分な状態が続くと、腎臓の糸球体や細動脈が障害されて、腎機能が低下します。糖尿病性腎症は、透析を必要とする慢性腎不全の最も多い原因です。
慢性糸球体腎炎	腎臓の糸球体が炎症を起こして、腎機能が低下します。原因は不明ですが、自己免疫疾患や感染症などが関係していると考えられます。慢性糸球体腎炎は、透析を必要とする慢性腎不全の第二位の原因です。
腎硬化症	高血圧や動脈硬化などが原因で、腎臓の血管が硬くなって、腎機能が低下します。腎硬化症は、高齢者に多く見られる慢性腎不全の原因です。
多発性嚢胞腎	遺伝性の疾患で、腎臓に多数の嚢胞（水疱）ができて、腎臓の正常な組織を圧迫して、腎機能が低下します。多発性嚢胞腎は、透析を必要とする慢性腎不全の第四位の原因です。
腎盂腎炎	膀胱や尿道などの下部尿路から感染が上がって、腎臓の腎盂や腎実質に炎症が起こります。高齢者では、前立腺肥大や尿失禁などの尿路閉塞や残尿が感染のリスク因子になります。
腎結石	尿中に含まれるカルシウムや尿酸などの物質が結晶化して、腎臓や尿管に石ができます。腎結石は、尿路感染や腎盂腎炎の原因になります。また、尿路を閉塞して、腎機能を低下させることもあります。

高齢者の慢性腎不全の症状

慢性腎不全の症状は、腎機能の低下の程度によって異なります。腎機能の低下の程度は、糸球体濾過量（GFR）という指標で評価されます。GFRは、腎臓が1分間にどれだけの血液をろ過できるかを表す数値で、単位はmL/分/1.73m2です。正常なGFRは90以上ですが、高齢者では加齢に伴って自然に低下します。慢性腎不全の診断基準は、GFRが60未満で3か月以上持続することです。慢性腎不全の症状は、以下のようにGFRの低下の程度に応じて分類されます。

GFR区分	GFR	症状
G1	90以上	正常または高値。ほとんど自覚症状はない。
G2	60～89	正常または軽度低下。ほとんど自覚症状はない。
G3a	45～59	軽度～中等度低下。夜間頻尿や貧血などが現れる。
G3b	30～44	中等度～高度低下。食欲不振や頭重感などが現れる。
G4	15～29	高度低下。むくみや尿量減少、吐き気や嘔吐などが現れる。
G5	15未満	末期腎不全。尿毒症や心不全などの重篤な合併症が現れる。透析や腎移植が必要になる。

高齢者の慢性腎不全の治療法

慢性腎不全の治療法には、以下のようなものがあります。

原因となる疾患の治療：糖尿病や高血圧などの生活習慣病を適切に治療することで、腎機能の低下を遅らせることができます。血糖値や血圧のコントロールは、慢性腎不全の予防や進行抑制に重要です。
食事療法：腎臓の負担を減らすために、食事に注意する必要があります。特に、タンパク質や塩分、カリウム、リンなどの摂取量を制限することが必要です。タンパク質は、腎臓のろ過機能が低下すると尿中に漏れ出して、尿たんぱくとなります。塩分は、高血圧やむくみの原因になります。カリウムは、腎臓の排泄機能が低下すると血中に蓄積して、不整脈や心停止の危険性があります。リンは、腎臓の排泄機能が低下すると血中に蓄積して、骨粗しょう症や皮膚痒みなどの原因になります。
薬物療法：腎機能の低下に伴って、血液中に有害な物質が増えることがあります。これらの物質を排出するために、薬物療法が行われます。例えば、尿酸や尿毒素などの尿毒素を除去するために、尿酸降下薬や吸着薬などが用いられます。また、貧血や高血圧などの合併症を防ぐために、鉄剤やエリスロポエチン、降圧薬などが用いられます。
腎代替療法：腎機能が極度に低下して、薬物療法や食事療法では対処できない場合は、腎代替療法が必要になります。腎代替療法には、透析と腎移植があります。透析は、人工的に血液をろ過して、尿毒素や余分な水分を除去する方法です。透析には、血液透析と腹膜透析があります。血液透析は、血管から血液を取り出して、人工腎臓と呼ばれる装置でろ過して、再び体内に戻す方法です。腹膜透析は、腹膜を利用して、腹腔内に透析液を注入して、尿毒素や余分な水分を除去する方法です。腎移植は、自分の腎臓を摘出して、他人の健康な腎臓を移植する方法です。腎移植は、透析よりも生活の質が高く、長期的な生存率が高いとされます。しかし、腎移植には、適切なドナーの確保や拒絶反応の予防などの問題があります。

高齢者の慢性腎不全の注意点

慢性腎不全の高齢者は、以下のような注意点に気をつける必要があります。

薬の服用管理：腎臓の働きが低下すると、薬の代謝や排泄が悪くなります。そのため、薬の効果や副作用が変わることがあります。薬の種類や量、服用時間などは、医師や薬剤師の指示に従ってください。また、市販薬や漢方薬、サプリメントなどの自己判断での服用は避けてください。
感染予防：慢性腎不全の高齢者は、免疫力が低下して、感染症にかかりやすくなります。特に、透析を行っている場合は、血管や腹膜にカテーテルを挿入することで、感染のリスクが高まります。感染予防のために、手洗いやマスクの着用、カテーテルの清潔管理などを行ってください。また、インフルエンザや肺炎などの予防接種も受けてください。
水分制限：腎臓の働きが低下すると、水分の排泄がうまくできなくなります。そのため、水分の摂りすぎは、むくみや高血圧、心不全などの原因になります。水分制限の必要性や量は、腎機能の低下の程度や尿量などによって異なります。医師や栄養士の指示に従って、水分の摂取量を調節してください。水分制限の際には、食事や飲み物だけでなく、口に入れるものすべてに含まれる水分を考慮する必要があります。例えば、果物やヨーグルト、アイスクリームなども水分に含まれます。